1 緒言



 盲学校や視覚障害者更生施設では、生徒・入所者が墨字や点字を活用できるようになるための指導が行われている。この指導は視覚障害がある者の学習や自立を支援する上で重要な部分である。特に、専門的な視覚障害教育を受けるのが理療教育課程からという中途視覚障害者(以下中視者とする)においては、使用文字を含む学習手段の確立が早急な課題となる。しかしながら、中視者が点字の習得途上にある場合や、拡大読書器等を使用することで墨字学習を維持している場合などでは、効率の良い学習を保障することが容易ではないと考えられる。
 大嶋らが2001年に行った調査では、理療教育課程に在籍する中視者の割合は盲学校で71.7%、国立視力障害センター(以下センター)で92%となっている。少子化や近年の糖尿病性網膜症の増加を鑑みると、理療教育課程における中視者割合は今後も増加することが考えられる。同調査によれば、墨字や点字という「文字」を使用しての学習に加え、授業の録音や録音教材による知識の習得や補完を試みている中視者も存在し、学習手段の多様化が始まっていることがうかがえる。しかし、実際に録音物をどのように使用しているのか、それらが学習の上で役立っているのかといった詳細は明らかになっていない。
 一方、理療教育に関連する録音教材はおおむね高額なものが多い。また、録音教科書は教科書として価格差補償や就学奨励費などの対象となっていないため、これを使用した学習を希望する生徒・入所者が、経済的に少ない負担で入手できる方策が必要であろう。学校や施設に整備されていることが望ましいが、録音教材などの音声を活用した学習保障を学校・施設でどのようにとらえ、どの程度整備しているのかという実態を示す全国的な調査は行われていない。
 我々は、現在模索状態ともいえる録音教材の高価格の問題や、助成方法に関する問題に正確なアプローチを図るには、中視者の音声による学習の実態および学校・施設側の現状や対応状況を把握することが不可欠と考えた。今回、主に明らかにしたい部分は、音声学習を必要とする背景、録音物を使う者の数・割合、その使い方や入手状況、録音物の有用性、音声学習に対する学校・施設のとらえ方、録音物の作成や整備状況、録音機器や教材に関する要望や問題点などである。本研究では、これらの実態を誰もが客観的にとらえ、改善策を考える際の材料となる数値化されたデータを得ることを目的としている。この目的のもと、全国の中視者生徒・入所者と、盲学校・視覚障害者更生施設に調査協力をいただき、集計結果を得たので、ここに報告する。



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