4 考察


 今回、学習手段の確保が課題となる中視者と、近年学習手段の一つとして利用されてきている録音機器・録音教材に注目し、その活用状況と学校・施設側の対応状況を調査することで、録音物を利用した学習の今後のあり方を探った。
 理療教育を受ける中視者は全国的にみて生徒・入所者の7割以上を占めており、中視者への学習指導の充実は理療教育において欠かせないことが改めていえる。
 学習を進める上での前提として、文字を使用できることは重要である。しかし今回の調査から、墨字や点字などを確実な使用文字として持たずに入学・入所する中視者は10人に1人の割合で存在することが明らかとなった。こうした中視者は、学習手段が早急に確保されなければ、学習に滞りや空白が生じる可能性がある。この場合、点字などの文字指導が必要となる。しかし今回の調査では、点字を習得中もしくは使用できる状態であっても、国家試験を点字のみで受ける予定の中視者はごく少数であるという結果も出ている。このことは中視者が点字で高度な内容を正確かつ速く読み取るようになるには相当の時間を要することを表している。
 一方、墨字や点字と録音テープの併用による受験予定者は約15%を占めており文字単独での受験に音声を組み合わせることで、少しでも確実な受験につなげようとする実情がうかがえる。墨字と録音併用の数は1年生よりも3年生が約2倍多く、逆に点字と録音テープ併用の数は3年生が1年生より約4割少なくなっている。この理由は定かではないが、一つには在学・入所中の視力低下により併用が必要になる場合が考えられる。また、学年が上がるに従い、点字習得を進めている生徒・入所者が拡大読書器などの活用にも習熟し、点字と録音テープ併用から墨字と録音テープ併用に切り替える可能性も考えられる。
 使用している教科書については、点字教科書とパソコン用データは他の視力段階に比べ視力0.01以下で多い。しかし、視力0.01以下であっても墨字教科書を使用している者も存在しており、拡大読書器などを使用し、視覚による学習を維持していることがうかがえる。一方、録音教科書の使用は視力0.1付近から視力が下がるとともに緩やかな増加傾向を示している。これは、録音教科書が墨字が活用できる視力段階においても視覚の補助手段として広く活用されていることを表している。
 今回の調査では、文字による学習に加え、授業の録音や録音教材注2)による知識の習得を試みている者が少なからず存在することが確認された。録音物の利用は使用文字を問わず、視力や年齢との関係においても幅広い段階で行われており、特に、眼の負担を軽減させる、学習を補完もしくは成り立たせるという目的において選択されている。
 調査結果から、学校・施設は生徒・入所者が授業を録音することについて比較的寛容であることがわかるが、統一された見解があるとはいえない状況である。
 授業の録音物は各自で使い方を考えて利用しており、録音物の利用は過半数の者にとって習慣化されていることが推察される。しかし、録音物を使うのが「時間ができた時のみ」と「試験前のみ」という回答を合わせると約44%となり、録音しただけで学習に効果的に利用されない部分が生じていないかが懸念される。録音物の効果的な使い方が見いだせずにいる場合もあり、使い方に関する指導を求める声に対応していく必要がある。
 録音教材においては、利用の大前提となる、教材入手の段階から問題があり、利用している場合でも半数の者が入手困難と感じている。過去に使用経験があるが、使わなくなった理由でも「必要な教材がないから」が最も多い。実際に、学校・施設での録音教材保有状況には大きな差異があり、録音教材を使用できる環境が場所によって異なる現状を表している。
 録音教材に対する評価はおおむね高く、墨字・点字を問わず、使用している多くの学習者にとって有用性が高く、学習意欲が高まることを示す結果となった。学校・施設側の回答でも、多くの生徒・入所者にとって利用価値があると考えているところが多い。また、「実際に録音教材を使用して学習効果が上がる例も増えてきている」という回答もあった。一方、「学習意欲への影響をはかりかねる」という回答もみられた。
 録音教材使用経験のある生徒・入所者に最も使いやすい録音教材の形態を尋ねた結果では、デイジーと回答したものがカセットテープを若干ではあるが上回っている。一方、学校・施設で作成可能な録音媒体をみても、56%がデイジーを挙げている。現在、点字図書館の貸し出し図書や録音教科書の販売物などもカセットテープから徐々にデイジーへシフトしてきており、デイジーが主流となる兆しが出てきている。今後はデイジーに限らず録音形態に求められるニーズの変化をさらに意識した対応が問われるであろう。
 中視者全体としては録音教材自体を知らなかった者が多く、録音教材の入手に関する情報の少なさがうかがえる。また、利用したいができずにいるという潜在的なケースも存在する。実際に利用するために必要な録音教材の入手、購入および作成依頼を考える際には、学校・施設および教員にかかる期待が大きいことも示された。これらの結果をみると、利用を希望する生徒・入所者に対応する環境整備を行うことのメリットは大きいと考えられる。さらに、そういった利用しやすい環境を整える上で、教材が高価格、改訂版に追いつかない、教材作成へのニーズに関して教員の負担が大きいなど障壁となる問題の解決を探るには、録音教材を墨字・点字教科書へ添付するなど、理療教育課程全体としての働きかけも検討される必要があると考えられる。学校・施設や個人にとって録音教材が購入しやすい環境が実現すれば、それを必要とする学習者への対処は容易になるに違いない。
 録音教材・機器などへの要望に関しては、機器類の使いやすさが大きな関心事であることが分かった。しかし、使いやすい機器を考える上で中視者の多様性をさらに認識し、ニーズ別に選択できるような方向性が必要なことが示唆されている。 今回の調査全体から、中視者の増加や時代の流れに伴う学習手段の多様化への対応は、今まさに過渡期であることが示された。学校向け調査では、今までの文字中心の対応を改める必要があるという議論が学校の教員間で起こっているという意見や、録音教材にたよった学習では点字の習得に消極的になるといった意見もみられた。全体的には録音教材を有用と認める意見が多いにもかかわらず、整備状況に格差がみられる背景にこのような意見があることも意識すべきであろう。
 録音教材を含む様々な学習手段のあり方は、中視者への対応において重要な部分であり、学校・施設が録音物の利用者へのサポート体制を拡充させることは、理療教育において今後避けて通れない課題であると言える。
 今後、各学校・施設において、録音物の使用状況や環境を見つめ直し、状況に合わせた適切な対応および学習者をとりまく環境の改善が行われていくことが望まれる。今回の調査結果がそれらを考える際の基礎資料の一つとなれば幸いである。



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