3 結果


 本研究は、調査協力をいただいた全国の盲学校61ヶ所と、視覚障害者更生施設2ヶ所および大学1ヶ所の理療教育課程主任と在籍する中視者からの回答をもとに行った。そのため結果的に盲学校を中心とした調査報告となっている。
 事前調査から、理療教育課程在籍者に占める中視者の割合は盲学校が75.6%、他の施設が70.1%(42.6%と91.7%の平均)、大学が75.9%であり、調査対象全体では74.8%という結果が得られた。このうち、盲学校の中視者割合について大嶋らの調査結果と比較してみると、2001年時点で71.7%だったものが今回は75.6%となっており、3.9%多いことがわかる(資料1-1)。
 本調査1では、57名の理療教育課程主任から回答が得られ、回収率は89.0%であった。本調査2では、1005名の中視者から回答が得られ、回収率は74.3%であった。
 結果集計に際し、各設問において無効回答と判断したものについては母数に含めていないため、設問間で母数が異なる場合がある。
 各調査の結果を本調査2、本調査1の順で以下に報告する。

本調査2の結果:生徒・入所者向けアンケート

A プロフィール等

在籍学部・学科(資料1-2)
 多くの中視者が、盲学校専攻科理療科(以下、専理とする)などあん摩・マッサージ・指圧師、鍼師および灸師の全て(以下三療師とする)を取得できる養成課程に在籍している。

年齢(資料1-3)
 最も多い年齢は30歳代の25.4%であり、60歳代は3.5%で最も少なかった。各年齢の割合は学部・学科間で若干の変動がみられる。60歳代の割合は最も低いが、2001年の大嶋らの調査と比較すると1.8%多い。

視力・視野欠損(資料1-4、資料1-5)
 各視力段階で大きな偏りはみられなかった。なお、視力0.31以上は一括集計の為、数値上は最も高くなっている。視野欠損があると答えたケースはおよそ4人に3人という結果になった。

使用文字・使用教科書(資料1-6、資料1-7、資料1-8)
 入学・入所時点で支障なく使用可能であった文字は、「墨字」が83.5%、「点字」は4.9%であった(資料1-6 複数回答)。また、「パソコン」は23.9%で約4人に1人が使用できている。
 入学・入所時点において墨字、点字およびパソコンが確実に読み書きできる手段ではなかったことを意味する「上記に該当無し」との回答は約10人に1人みられた。
 資料1-7(複数回答)は、現在の使用教科書を示している。普通・拡大文字の教科書使用が大多数を占める一方、録音教科書も13.0%の者が使用している。点字教科書は6.6%、パソコンデータの使用は5.3%にとどまっている。
 資料1-8(クロス表)は、使用教科書を視力との関係で示したものである。墨字教科書(普通文字、拡大文字、拡大コピー)の使用者は、全ての視力段階に比較的偏りなく分布している。点字教科書とパソコン用データの使用は視力0.01を境に急増する。一方、録音教科書の使用は視力0.1付近から視力が下がるとともに緩やかな増加傾向を示している。

国家試験の受験方法(資料1-9、資料1-10、資料1-11)
 予定している受験方法では墨字が約8割であり、墨字や点字と録音併用での受験を予定している者は合わせて17.2%を占めている(資料1-9)。また、墨字と録音の併用が数および割合において点字と録音の併用の2倍程度存在する。点字単独での受験予定者は2.0%にとどまっている。
 これを視力との関係でみると、墨字受験は各視力段階に分布し、点字受験および点字と録音テープ併用は視力0.01以下で著しい増加がみられる(資料1-10)。墨字と録音テープ併用受験は、視力0.1付近を境に視力が下がるとともに徐々に増加している。
 入学・入所時に使用可能文字を持たなかった中視者の予定受験方法をみると、墨字受験が43.5%と最も多く、点字受験は2.4%のみである(資料1-11)。一方、点字と録音テープ併用は27.1%で墨字の次に多く、すべての併用受験の合計は54.1%を占めている。
 受験方法を学年との関係で示したのが資料1-12である。学年間で大きな差はみられないが、墨字と録音併用の数は1年生よりも3年生が約2倍多く、逆に点字と録音テープ併用の数は3年生が1年生より約4割少なくなっている。

B 授業の録音

 資料1-13は授業を録音している生徒・入所者の割合である。約3人に1人が録音を行っていると答えている。これを視力との関係でみると、ほぼすべての視力段階で授業録音が行われていることが分かる(資料1-14)。しかし、視力が低いほど授業を録音している割合は高く、視力0.01以下では録音している割合が録音していない割合を上回っている。
 次に、年齢との関係でみると、年齢が高いほど録音をしている割合も高くなっており、特に40歳代から60歳代では同世代の40〜50%程度を占めている(資料1-15)。また、60歳代では録音している割合が、していない割合を上回っている。
 録音頻度に関する問いに対しては、「必要と思う科目のみ録音」が60.2%と最も多かった(資料1-16)。
 録音している理由としては、「筆記ではノート取りが追いつかない」が58.5%で最も多く、他は「先生の話に集中したい」 34.1%、「眼の負担を減らし視力を保持したい」 26.9%、「墨字や点字によるノート取りが全くできない」 22.3%と続いている(資料1-17 複数回答)。

C 録音物の利用

利用方法・頻度・範囲(資料1-18、資料1-19、資料1-20、資料1-21)
 資料1-18は、授業の録音物を実際にどう利用しているかを尋ねた結果である。「聞いてノートにまとめている」が42.2%で最も多く、次いで「ノートにはまとめないが聞き直すようにしている」 34.3%、「大事だと思うところだけを残している」 12.6%となっている。約9割の者が、録音後にその録音物を何らかの形で利用していることが分かる。「特に何もしていない」の答えが6.2%程度存在するが、その理由としては「念のために録音しているので、普段は聞く必要がない」が最も多かった(資料1-19)。
 録音物を利用する頻度は「録音したその日のうち」が40.3%で最も多く、「時間ができた時のみ」 31.1%、「2〜3回分の録音がたまってから」 15.7%、「試験前のみ」 11.3%の順になっている(資料1-20)。
 録音物の利用範囲に関わる設問では、「毎日の授業の復習」と「定期試験の勉強」がそれぞれ63.3%、58.1%であり、「国家試験の勉強」の18.5%と比較して多く選択されている(資料1-21 複数回答)。

録音物に関する指導(資料1-22、資料1-23、資料1-24、資料1-25、資料1-26)
 資料1-22は、授業の録音物の活用に関する教員からの指導の有無を示したものである。受けていると回答したのは14.4%であった。一方、全回答者の3人に1人が、指導は自分に必要であると感じている(資料1-23)。その理由として、「録音物を活用した勉強法がわからない」、「学習効果・効率を上げるため」といった意見が多くみられた。視力および年齢との関係では視力は低いほど、年齢は高いほど指導を受けている割合が高く、指導を必要と感じる割合も高い傾向がある(資料1-25、資料1-26)。

D 録音教材の使用

 録音教材を「現在使っている」と答えたのは23.0%であった(資料1-27)。これを視力・年齢別でみると、おおむね視力が低いほど、また年齢が高いほど使っている人数・割合ともに多い傾向を示している(資料1-28、資料1-29)。特に視力0.08以下と40歳代以上に使用者が多い。使用している理由に多かったのは、「眼の負担を軽減させるため」、「点字や墨字使用が困難だから」などである。
 最も使いやすい録音教材を問う質問では、デイジーが44.9%で最も多く、次いでカセットテープが38.2%、その他MDなどが16.8%であった(資料1-30)。使いやすい理由に関して、カセットテープでは扱いやすさ、デイジーでは検索の容易さ、その他では持ち運びの便利さを挙げるものが最も多かった。「それしか持っていないから」という理由もカセットテープでは次に多く挙げられている。
 録音教材を「使ったことがない」と答えた者は全体の67.7%であり、そう答えた者の56.3%は録音教材の存在自体を知らなかったと回答している(資料1-31)。

E 録音教材の入手

 資料1-33(複数回答)は、使用したい録音教材があるときの主な問い合わせ先を示している。「在籍している学校・施設」という回答が72.9%と最も多く、以下「友人・知人」 29.0%、「点字図書館」 20.6%、「一般図書館」 5.3%、「その他」 9.2%となっている。その他には「教員」、「民間団体」、「インターネット」が挙げられている。
入手の容易さに関しては、2人に1人が容易でないと感じている(資料1-34)。その理由としては、「録音教材自体が少ないから」、「情報が少ないから」、「録音教材は高価だから」という意見が多い。一方、容易と答えた理由では、「教員が対応してくれるから」、「学校にあるから」が多かった。
 次に、使用したい録音教材が見つからない場合の対処で最も多かったのは、「学校に購入を相談する」の37.8%で、以下「その時点であきらめる」 33.9%、「誰かに作成を依頼する」 21.9%の順となっている(資料1-35)。「自分で購入する」は3.9%と低かった。これを入手の容易さとの関係でみると、容易でないと答えた者に「その時点であきらめる」の回答が最も多い(資料1-36)。容易と答えた場合では、「学校に購入を相談」や「誰かに作成を依頼」の割合が多く、「その時点であきらめる」は比較的少ない。
 作成を依頼する場合の依頼先は「教員」、「音訳ボランティア」、「家族・友人・知人」の順で多い(資料1-37 複数回答)。

F 録音教材の有用性

試験勉強への有用度
 資料1-38は、録音教材の試験勉強への有用度に関する結果である。録音教材を使用している者の80.6%が「非常に役に立つ」もしくは「役に立つ」と答えている。以下「どちらとも言えない」 12.0%、「あまり役に立たない」 6.6%と続いている。役に立つ理由に多いのは、「眼に負担をかけずに勉強できるから」、「唯一の勉強できる手段だから」、「繰り返し学習しやすい」で、どちらとも言えない理由やあまり役に立たない理由には、「記憶に残りにくい」、「時間がない」などの意見がみられた。

学習意欲への影響
 次に録音教材と学習意欲の関係を示す(資料1-39)。「非常に高まる」と「高まる」を合わせると71.8%を占めている。以下「どちらとも言えない」が23.5%、「変化しない」が4.7%、「かえって低くなる」を選んだ者はいなかった。学習意欲が高まる理由で多いのは、「眼に負担をかけずに勉強できる」、「効率よく勉強できる」、「内容が理解できるから」である。どちらとも言えない理由では「自分でもまだ判断がつかないから」、「時間がかかるから」などがみられた。

録音教材の必要性
 録音教材がなかったらどう感じるかという設問では、「非常に困る」と「困る」を合わせると67.4%であり、以下「どちらとも言えない」 23.8%、「あまり困らない」 6.9%、「困らない」 2.0%である(資料1-40)。録音教材を使った学習がすでに多くの者にとって不可欠なものになっていることがうかがえる。
 これらの結果を互いに掛け合わせたものが資料1-41である。試験勉強への有用性を高く感じている者ほど学習意欲が高まると感じる度合いも高く、録音教材がないと困ると感じる度合いも高い傾向が見いだせる。また、学習意欲が高まると強く感じているほど、録音教材がなければ困ると感じる度合いも高くなる傾向を示している。

G 録音・再生機器

 録音・再生機器情報の入手に関しては、「学校・施設の教員から」が69.8%で最も多かった(資料1-42 複数回答)。その他は「家族・友人・知人から」 31.0%、「点字図書館」 18.0%、「書籍・インターネットなどから」 11.4%、「自治体職員から」 8.2%となっている。

H 録音教材・機器に関する要望

 この設問に関しては自由記述方式で意見を求める方式をとり、109名からの有効回答が得られた。資料1-43は得られた意見を多い順に示したものである。
 録音再生機器の操作を簡単にしてほしいという意見が17.4%で、最も多くみられた。ついで、録音機器を安くしてほしい・補助がほしいという意見が10.1%、録音・再生機器の機能を向上させてほしいという意見が7.3%、録音機器を小さく軽くしてほしいという意見が6.4%、録音教材を安くしてほしい・補助がほしいという意見が6.4%などとなっている。その他、主なものとして、録音教材の種類を増やしてほしい、漢字や図、横文字の分かり易い説明がほしい、盲学校で使う教科書をすべて音声化してほしいなどがあった。


本調査1の結果:理療教育課程主任向けアンケート

A 授業の録音について

 授業の録音を生徒が行うことについて、学校・施設側の対応状況をみたものである(資料2-1)。「録音させるかどうかは各教員の判断に任されている」が52.6%と、「自由に録音してよいという教員間の共通認識がある」の43.9%を上回っている。

B 録音教材の保有状況について

 次に、録音教材の保有状況についての意識と実態についてみる(資料2-2)。「録音教材の保有状況についてどのように捉えているか」という質問に関しては、「更なる改善が必要」と答えたものが57.1%と、「現状で特に問題はない」の42.9%を上回っている。前者の理由としては、「録音対応していくべき教科をもっと増やす必要があるから」、「教科書の改訂に録音教材が追いつかないから」、「文字での学習が困難な生徒が増加しているため」などが挙げられており、後者の理由としては「販売されている物はすべて購入している」などがあった。半数以上の学校が、現状では不十分であると認識しており、タイトル数の不足や改訂に追いつかないという問題が認識されている。
 別表1は、各学校・施設が保有する録音教科書を、現在販売されている教科書のリストを基準にしてまとめたものである。録音教科書を全科目そろえているところと、全く保有していないところとの差が大きく現れている。
 資料2-14、2-15から、現状で問題ないと回答しているところでも、何らかの形で購入・作成をして録音教材をそろえているところが多いことがわかる。さらに資料2-16では、購入、作成いずれかであっても、何らかの対策をとっているところが多いという結果となった。これが問題意識とどう関係するかをみたものが資料2-17の三重クロス表である。問題意識が特になくても、すべての学校が録音教材をさらに増補している。

C 録音教材の作成・購入について

 前半は作成について、後半は購入についての状況を尋ねた結果である。まず、録音教材の作成について、「作成している」が57.1%と、「作成していない」の42.9%を上回っている(資料2-3)。「作成している」と回答した者にのみ、設問7までの質問を回答させている。順番に見ていくと、新たな作成についての質問では、「生徒・入所者から要望があった時にのみ作成している」が50.0%で、「学校・施設で計画的に作成し、生徒・入所者の要望があった時にも作成する」の28.1%を上回っている(資料2-4)。作成可能な録音教材の媒体を尋ねた設問においては、「カセットテープ」 100%、「デイジー」 53.1%、「オーディオCD」 12.5%、「MD」 21.9%であった(資料2-5 複数回答)。
 録音教材の作成時に録音を実際に行っているのは、理療教育課程の教員や実習助手という場合が多く、71.9%という結果となった(資料2-6 複数回答)。音訳ボランティアに依頼していると回答した学校・施設も50.0%存在する。また、理療教育以外の教員が教材を作成しているところも6.3%と、わずかにみられた。
 同様に、録音教材の購入についての質問を設けているが、「購入している」が66.0%で、「購入していない」の34.0%を上回る(資料2-7)。設問8で「購入している」と答えたものにのみ設問9の回答を求めている(資料2-8)。「学校・施設で計画的に購入し、生徒・入所者の要望があった時にも購入する」ところが最も多く63.2%を占めている。
 作成・購入以外の方法があるかどうかを尋ねた設問10においては、「ある」と答えたのは41.5%で、「個人所有のものを利用したり、図書館から借りたりする」「他の学校・施設から取り寄せる」「卒業生などからの寄贈による」「ライトハウスの音訳サービスの利用」などが挙げられた(資料2-9)。

D 録音教材の情報交換について

 録音教材の相互貸借などについて、実際に行ったことがあるのは22.8%であった(資料2-10)。

E 録音教材の利用価値について

 録音教材の有用性を問う質問である(資料2-11)。「多くの生徒・入所者にとって利用価値がある」が69.1%、ついで「ほぼ全ての生徒・入所者にとって利用価値がある」5.5%、「多くの生徒・入所者にとって利用価値がない」の3.6%と続いている。

F デイジー再生機の保有状況について

 生徒・入所者が利用可能なデイジー再生機(録音できる物を含む)を、どの程度保有しているかという質問である。デイジー再生機設置ありと答えたものが87.0%で、平均保有台数は5.5台、うち貸し出し台数は4.1台となった(資料2-12、別表 2)。

G 録音教材の普及について

 「墨字・点字教科書に添付される」ことが最も良いと考える回答が75.5%と最も多かった(資料2-13)。それ以外では「価格が今よりも下がる」12.2%、「助成対象になる」8.2%となった。その他の回答でデータのダウンロード販売を提案しているものもみられた。

H 録音教材に関する問題点について

 録音教材を理療教育で活用していく上での問題点について尋ねたものである。以下その中で多かったものを項目別に紹介する。
ア. 録音教材の学習手段としての問題点
「記憶の定着が難しい」「要点を整理するのが困難」「巻数が多く整理が大変」「授業を受けながら使用(再生)できない」「点字の習得に支障が出る」
イ. 録音/再生機器に関する問題点
「操作が複雑」「機器が高価」「大きくて持ち運びに不便」「デイジーは汎用性が低い」「日常生活用具の補助制度に問題あり」
ウ. 録音教材の内容等に関する問題点
「種類が少ない」「出版物の改訂に追いついていない」「表や図の読み方に問題がある」「教科の要点を録音したものがない」
エ. 録音教材の入手およびその手段に関する問題点
「高価であり購入しにくい」「出版所による価格差が大きい」「製品の販売状況が把握できない」「音訳ボランティアに依頼する場合、点字図書館に所属していることが必要」
オ. その他の問題点
「生徒の使用しているメディアが多様」「録音教材に関する情報の共有がなされていない(知らない人が多い)」

※調査1の記述回答部分の扱いについては、カテゴライズにより分析するには絶対数が少ないため、各質問において紹介する程度とした。



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